第8章 新しい取り組みと自閉スペクトラム症 ②自閉スペクトラム症のある人を対象にした会話型ロールプレイングゲーム(TRPG)を通じた楽しいコミュニケーションの体験

以下の文章は、倉光 修 監修・渡辺慶一郎 編著『自閉スペクトラム症のある青年・成人への精神療法的アプローチ』(金子書房,2021年)をスタッフが研修のために要約したものです。当院院長が第3章を担当している書籍です。出版社の許可を得てホームページ上に掲載しています。また、発達障害で困っている皆さんの参考になるよう、当院で行っていることなどを追記しています。ぜひ、ご一読ください。
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あなたは「TRPG」という言葉を聞いたことがありますか?TRPGとは、参加者同士がコミュニケーションを取りながら物語を作り上げていく会話型のテーブルゲームの総称です。

自閉スペクトラム症(ASD)などの発達特性を持つ方はその独特な認知や感覚の特性から周囲の人と関わる時の適切なふるまいを学習する機会が乏しく、相手と適切な関係を築いたり、関係を維持することが難しいと言われています。また、学校や集団生活の中で他の人たちと同じようにすることができず、注意や叱責を受ける経験が多くなる傾向があります。こういった体験の積み重ねは本人から自信を奪い、自己評価を低下させて、ますます他者と関わる活動への参加意欲を削いでします。

TRPGはASDなどの発達特性を持つ方でも積極的にコミュニケーションを取ったり、笑いながら楽しめる要素がたくさん詰まっています。ASDの方は暗黙のルールを理解しづらいと言われますが、TRPGのようにルールが言語的に明示されていると、主体的な発言や行動が促されます。また、「戦士」や「魔術師」のように役割が明確化されているため、何をすれば良いか分からないといったことも少ないのが特徴です。

TRPG活動に参加したASDのある方を対象とした生活の質(QOL)に関するアンケート調査を行ったところ、QOLの得点がTRPG活動の参加前後で有意に増加したという結果が出ており、TRPGが彼らの生活を豊かにする余暇活動となっていることが示唆されました。


当院のデイケアでは、参加者同士が自由に交流できる自主活動の時間を設けています。発達障害の方の中には、「仕事に関する話はできるけど雑談になると何を話せば良いか分からない」という方がけっこういらっしゃいます。自主活動の時間はそういった方にとって、カジュアルな場面でのコミュニケーションを練習する機会となっています。

2022年09月12日