第7章 描画療法と自閉症スペクトラム―自分らしく生きるためのアプローチー

以下の文章は、倉光 修 監修・渡辺慶一郎 編著『自閉スペクトラム症のある青年・成人への精神療法的アプローチ』(金子書房,2021年)をスタッフが研修のために要約したものです。当院院長が第3章を担当している書籍です。出版社の許可を得てホームページ上に掲載しています。また、発達障害で困っている皆さんの参考になるよう、当院で行っていることなどを追記しています。ぜひ、ご一読ください。
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臨床描画法は、ASD児者の「表現できない心の世界」や「自分らしい生き方」を視覚的に共有することができる技法です。中でも「○△□物語法」は、クライエントが過去に体験した図工や美術への苦手意識を再燃させることなく安全に、「日常生活場面での困難さ」と「自分らしい生き方」の狭間で生じる葛藤を表現することができます。

また、臨床描画と同じようにセラピストがASD児者の「心の揺れ」を共有できるものが、漫画です。面接時にクライエントが自ら漫画を持参し、漫画を通して「自分らしい生き方」を理解してもらおうとするなど、主体的に「“自分”を生成させて」いこうとする行為を、セラピストが「このままでも大丈夫」と支えることが、ASD児者の「主体性の回復」につながるのです。

最近の研究では、ASD者が抱える発達障害特性だけでなく、併存症への理解と対応が重要であると言われています。幼少期から長期的な支援を受けているASD者の場合、成長するにつれ言語性IQが高くなっていく事例が多くみられます。これは社会性の成長として喜ぶべきことではありますが、一方で、周囲の人々の表情や自分への評価が理解できるようになり、新たな苦悩として抑うつ状態や不安性障害の依存症に繋がる可能性が高まるということにも留意する必要があります。このような、ASD者の多くが抱える内在化障害は臨床描画では測りづらいため、臨床描画法の限界を理解しつつ、内在化障害のリスクにも焦点を当てることが青年期ASD理解の一歩になります。


当院では相手の心情や表情、場面の背景等、感情認知のトレーニングの一つとして映画(アニメ映画)を用いたプログラムを実践しています。ASDを抱える仲間たちと映画を視聴した後、登場人物の気持ちを想像して語り合う中で、多様な感じ方、考え方を知ることができます。また、映画の人物と過去の経験を重ね、楽しかった思い出を共有したり、過去の苦労を労い合う中で生じる癒し体験は、過去の対人関係悪化のスパイラルを緩める効果があると考えらえています。

2022年08月29日